生産者の皆さんに学ぶ
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いろどり(つまもの)の町で育まれるもう一つの元気。

2010年8月26日 (木)

Takaishisan 上勝香酸柑橘部会 部会長
徳島県勝浦郡上勝町
高石雅弘さん

 東とくしま農協上勝支所の竹中さんの御紹介で、上勝でゆずとすだちの栽培をされている高石さんのKamikatu_2 お宅にお邪魔した。高石さんは上勝香酸柑橘部会の部会長をされている。 
 小雨の降る中、車が一台通れるくらいの細い山道を登り、高石さんのお宅を目指した。道中に見えるすだちの木にはちらほらと白いつぼみが見えていた。


■■逆境をバネに。すだち・ゆずへの転向■■Kamikatu2
 高石さんのお宅は代々上勝で農業を営んでいる。昔はゆずやすだちの栽培はしておらず、ミカンを作る農家だったそうだ。
 ゆず、すだち栽培への転機は昭和56年に訪れた。高石さんはまだ学生だったという。
 その年の2月、上勝は大寒波にみまわれ寒凍害でほとんどのミカンの木が枯れたのだ。1月や2月上旬の寒い時期ではなく2月末の少し寒さが緩んだ頃の寒波だったので、被害が大きかったのではないかと言われている。

 ちょうどその頃、市場でのミカンの価格が下がり始めており、上勝で穫れる酸っぱいミカンよりも甘いミカンの方がよく売れるようになってきていた。
 そこで、被害を受けた上勝の農家の人たちは各自で手探りの中、別の作物への転向をはじめたのだそうだ。ある人は椎茸、ある人は干しいも、ある人は高冷地栽培でホウレン草など・・・・
 高石さんのご両親は知り合いの人がゆずの栽培を始めたのをきっかけにゆずとすだちの栽培を始めた。

 昼夜の温度差の激しい上勝では香りの強い香酸柑橘類を育てるのにはとても適した環境だったのだ。当時ほとんど栽培されていなかったすだちやゆずは現在上勝での主要な農作物になっている。
 それは、新たな道を模索した上勝の農家の方々の試行錯誤と努力の結果ともいえるだろう。


■■すだち・ゆずと過ごす1年■■
Sudachihana  高石さんにすだちとゆずの栽培の1年の大まかな流れを教わった。
 すだちは少し暖かくなり始めた初春から剪定をし、5月中旬から末頃に花が咲く。6月の下旬になると少し大きくなった果実が自然に枝から落ちていく。(生理落果という)
 7月下旬には自然に落ちた実だけでは木に残っている数が多いので不要な分を摘む。(摘果(てっか)という)葉っぱも多すぎると果実の葉影が黄色くなるので不要な葉を摘みとる。(摘葉(てきよう)という)
 暑くなる6月から9月まで2~3回消毒や除草剤をまき、8月中旬から9月下旬にちょうどいい大きさになったものを収穫する。
 収穫したすだちは加工用と青果用に選別し、原料用は収穫後ただちにJAの加工所へ出荷し、青果用は収穫後風通しの良いところに置いて乾かす。(予措(よそ)という)予措をしないとすだちが傷むのが早いのだそうだ。
青果用は予措を終えると1.5~2kgに分け専用の袋に詰めて冷蔵庫で保管する。

 冷蔵庫で保管したすだちは10月から3月まで数を調整しながら出荷される。
冷蔵すだちの出荷は3月上旬頃までで、3月中旬頃になるとハウス栽培のすだちの出荷がはじまる。冷蔵すだちとハウス栽培のすだちとの兼ね合いもあり、この出荷時期はJA全農とくしまにより決められているのだそうだ。Yuzukajitu

 ゆずはすだちより少し遅く、5月末頃に花が咲く。
すだちと同じように自然と枝から実が落ちるが、摘果はしなくて良い。
 10月下旬頃から収穫をして、原料用と青果用と冬至用の3つに選別し原料用は加工所へ青果用は1月から5月上旬まで出荷する。

 ちなみに高石さんは栽培されていないが、ゆこうはすだちとゆずのちょうど中間に花が咲き実がなるそうだ。栽培方法はゆずとほぼ同じだが、ゆこうは青果販売がないのでほとんど原料として加工所へ出荷される。


■■すだち・ゆず栽培の苦労と魅力■■
Sidachikjaitu_2  「すだちやゆずの栽培での苦労はなんですか?」という質問に、「話し出したらキリがないよ」と高石さん。
 一番の苦労は肉体的にきつい仕事だということだそうだ。収穫時には大量に重いものを運ばなければいけない。しかも、斜面での作業がほとんどになるので平地の作業に比べると負荷が大きい。場所によってはモノレールのようなものを斜面に這わすことで、作業の軽減を図っているが、まだまだ作業は大変だという。
 また、夏の暑い日の作業も厳しい。綺麗な果実を保つため、果実が育つ夏の時期に消毒をする必要がある。消毒の際はカッパを着るので炎天下での消毒は蒸し風呂に入ったまま作業をしているのと同じ状態で物凄く暑い。
 夏の作業が体力的にも一番キツイと話していた。

 特にすだちは病気に弱く、かいよう病・そうか病などがあるが一度病気にかかってしまうと長い間木に病気が残ってしまうので消毒は欠かせない。
 最近では無農薬のものの方が良いと言われてはいるが、未だ綺麗な果実を手に取る消費者の方が多く、綺麗な果実を保つためにはどうしても必要になってくる。消毒をしない方が栽培の負担も減るがなかなかそうもいかないのが現実なのだ。

Yuzutoge  次に大変なのはゆずのトゲだそうだ。
 ゆずの木にはたくさんのトゲがある。トゲはかなり鋭く、作業をしていると腕が傷だらけになるという。また、トゲは一度刺さるとなかなか抜けずすごく痛いのだそうだ。剪定した枝を踏むと靴の底を突きぬけ足の裏に刺さることもありとても危険だ。
 高石さんが見せて下さった両腕にはゆずの剪定の時にできた細かい引っかき傷が無数にあった。
  
 逆に、農業をしていて良いと思うところを聞いてみた。
少し考えた後、「時間の自由が利くところかな。」という答えが返ってきた。
すだちやゆずは、今日この作業をしなければダメになってしまうということがないので、用事があると作業を遅らせたり早めたり自分でスケジュールの管理ができる。
 また、収穫量や価格は毎年変動する。収穫量が少ない年や逆に穫れすぎる時もあるが、あたると大きいのも魅力のひとつだという。

 すだちは全国で流通している大部分が徳島で生産されているものであり、徳島県でも販売促進に力を入れていて全国的にキャンペーンもしている。
 ゆずは近年産地が増えてきているそうだ。知名度は高いが今後競争が激しくなるだろうと言われている。
Yukouki  ゆこうは上勝の限られた地域でしか栽培されていないため希少価値があるが、まだ知名度は低くなかなか販売には繋がらない。ぽん酢の隠し味としては抜群でJA東とくしまでは知名度を上げるため様々なところでアピールをしている。
 
 ただ栽培するだけでなく、市場の動向を見極めることも大切なのだ。


■■上勝の元気■■
Sudachiki   高石さんは農協の職員をしながら、ご両親の農業を手伝っていた。平成8年高石さんが36歳の時、農協を退職し専業で農業をすることを決めたのだそうだ。お手伝いをされていた時も後々はご両親の仕事を継いでいこうという意思はあったのだという。仕事をしつつ手伝いをしつつ、どちらが良いか天秤にかけていたのだが、ついに農業一本でやっていこうという自信がついたのだ。
 ちょうど農業の方が忙しくなり始めた時期でもあった。そこで、高石さんは農協を辞めて専業でやっていくことを決めたのだ。

 上勝でも専業で農家をされている方は少なく、ほとんどが兼業農家なのだという。専業農家はお年寄りの方が多くその大部分の方が全国的に有名になった「いろどり(つまもの)」をしているか、すだち・ゆず・ゆこうなどの香酸柑橘類を育てているかに分かれている。
Kamikatu3_2 ごく自然に当り前のように「両親の農業を継いだだけだよ」高石さんは話す。その高石さんにとっての「当たり前」は誰にでもできることではないだろう。農業一本に絞る、専業でするということはリスクも高い。大きな覚悟がないとできないことだ。

 就農者の高齢化が問題視されている中で、中堅で元気な世代の高石さんは、今まさに上勝を背負っている大きな存在であることは間違いない。
 上勝は「いろどり」の販売でお年寄りが元気だと言うところにスポットが当たりがちだが、決してそれだけではないということを高石さんのお話から感じることができた。

 高石さんの育てるすだちやゆずには、そんな元気がたくさん詰まっているのだろう。高石さんにお会いして、お話を聞いて、元気を分けていただいたような気がする。
「県外の大学に通っている息子が帰ってきたらやってみたいこともあるんよ。」と話す高石さん。その目は“今”だけでなく、“未来”にも向けられている。


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